PETボトルは、透明性と安定性から広く普及しているが、その環境負荷から、消費者の間ではより軽量なPETボトルの需要が高まっている。
だが、ボトルが薄くなるとガスが透過しやすくなり、ビールやワイン、ジュースなど、酸素や二酸化炭素、水蒸気に敏感な製品にとっては理想的ではなく、保存期間に影響を与えてしまう。
ガスの透過を抑えるためにさまざまなガスバリア技術が開発されてきたが、これらは同時にボトルの透明度を低下させることが多く、充填できる飲料の種類が制限され、リサイクルが困難になっていた。
そこでキリンは、ホットワイヤー技術を用いて、ワイヤーと原料となる気体種の組み合わせによる薄膜コーティングを開発し、特に軽量のPETボトルのガス透過を防止することに成功した。
Surface and Coatings Technology誌に2018年に掲載された研究で、キリンと他の研究者等は、タンタルとビニルシランガスの組み合わせにより、シリコン、炭素、酸素からなる薄膜が形成されることを発見した。
この技術は、ペットボトルにガス(ビニルシラン)を充填し、セラミック棒(熱線)をボトルに挿入してガスを分解し、フィルム状にしてペットボトルの内面に付着させる。この後に、飲料の内容物を充填しする。
このフィルムは、内容物の品質保持にも役立つと期待されている。
キリンホールディングスのパッケージイノベーション研究所のSatoru Kinoshitaマネージャーは、FoodNavigator-Asia誌の取材に対し、「この技術を使うことで、プラスチックの使用量を減らし、賞味期限を延ばすことでフードロスを減らすことに貢献できると考えています」と語った。
キリンは、この技術をメルシャン(ワイン)のPET製品で実用化の段階にある。
Kinoshita氏は、このガスバリア薄膜が、pHの異なる飲料など、従来の技術よりも幅広い飲料に使用できると付け加えた。
飲料以外にも、食品容器、化粧品パッケージ、サプリメントパッケージなど、ガスバリアを必要とする容器にも適用できる。
「飲料や酒類だけでなく、調味料や食品・化粧品容器、さらには細胞培養用素材などのヘルスサイエンス分野での利用の可能性を探るため、外部パートナーと協力して製品化を目指します」とKinoshita氏は語っている。
また、ガスとホットワイヤーの組み合わせを変えることで、別の特性を持った薄膜ができる可能性があり、飲料だけでなくさまざまな産業に応用できる可能性があると説明している。
この技術は、キリングループが2025年に向けて掲げる環境ビジョンの中で、持続可能なパッケージや省資源のための技術開発を推進する役割を担っている。